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ED診療のコツ

糖尿病専門医がみるED

監修:せいの内科クリニック 院長 清野 弘明 先生

生活習慣病の代名詞ともいえる糖尿病。糖尿病の合併症には、手足のしびれ、網膜症、腎症、脳卒中など実にさまざまな症状がありますが、その中には勃起障害であるED(Erectile Dysfunction)も含まれます。今回、糖尿病の専門医であり性機能学会の評議員でもある、せいの内科クリニックの清野弘明先生にインタビューを行い、糖尿病とEDの関係性を豊富なご経験と優れた知見をもとに語っていただきました。

監修:せいの内科クリニック院長 清野 弘明 先生

せいの内科クリニックについて

−貴クリニックは、具体的にどのような特色を持ったクリニックでしょうか

当クリニックでは糖尿病の治療とトータルケアを中心に、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病の予防や治療、また早期発見を目的に診療しています。特に糖尿病治療に関しては糖尿病専門医や糖尿病指導医の資格を生かし、血糖コントロールを外来通院で行えるようサポートしています。その他にも糖尿病療養指導士の資格を有する看護師や、患者さんに栄養指導を行う管理栄養士が一丸となって、患者さんの支えになれるよう日々努力を重ねています。

当クリニックに来院される患者さんの8割が、糖尿病患者さんです。また来院される患者さんの中には、糖尿病の合併症としてEDを発症している方も多数いらっしゃいます。その他にもホームページをごらんになって、EDの治療目的で来院される患者さんも多数おられます。そのようなことからも、糖尿病とEDの診療・治療に力を入れていることが特色といえます。

EDを標榜した理由

−診療科目にもEDがありますが、なぜEDに着目し、診療を始められたのですか。

まず大前提に、糖尿病の合併症としてEDを発症するケースが非常に多いということが挙げられます。ED診療を標榜するまでに至ったきっかけというのは今から15年ほど前、私が太田西ノ内病院糖尿病センターで勤務していたときに、糖尿病患者さん700余名を対象に実施したアンケートでした。それは糖尿病患者さんに対してED症状の有無を問うアンケートだったのですが、700余名の内4割以上の方が、完全型ED(28%)である、または不完全型ED(14%)である、と回答したのです(図1)。その結果を見たときに、たとえ内科医でも糖尿病を診察する機会があるならば、EDに関する知識を高め、患者さんにきちんと説明し、治療を行うべきであろうと痛感し、後年2006年に当クリニックを開設した際にはEDを標榜し、ED診療にも力を注ぐことに決めたのです。

実際に、糖尿病の治療で来院された患者さんにEDの症状を確認してみると、「実は…」というケースが結構あります。その場合にはそのままEDの問診を行って、症状や治療、また治療薬の説明などを行い、すぐ処方にまで進むことも多いですね。

太田西ノ内病院糖尿病センター通院中の患者を対象としたアンケート調査

[図1]太田西ノ内病院糖尿病センター通院中の患者を対象としたアンケート調査

患者さんにEDの症状を確認する方法

せいの内科クリニックの問診票

[(図2)]せいの内科クリニックの問診票

−具体的にはどのようにして、患者さんにEDの有無や症状を確認するのですか。

患者さんにEDについて確認する際には、糖尿病のさまざまな合併症を説明するためのパンフレットを用いています。このパンフレットには、糖尿病の合併症が発症する部位に症状名を記載した人型のイラストが描かれているのですが、糖尿病に関する説明を行いながら、EDの項目にも触れるようにしています。症状名がテキストで記されているため、患者さんも「たまにあるかも…」といってEDの項目を指で示しやすいというのも、EDを相談するのに抵抗感が少なくなる方法として適していると考えています。当クリニックでは以前からこの方法を用いてED患者さんの顕在化を図り、早期発見・早期治療に役立てています。また初診時にご記入いただく問診票にもEDの項目を設けているのですが、それがあることによって、内科受診や糖尿病受診のつもりで訪れた患者さんがEDについても相談され、治療を進めているケースもありますね(図2)。

−糖尿病患者さんの中で、EDの可能性が高いと思われる患者像はあるのでしょうか。

はい、あります。EDには大きく分けて、糖尿病などが起因となる神経や血管に障害のある器質性EDと、心理的ストレスなどが原因となる心因性EDがありますが、特に器質性EDには、EDが疑われる、またはEDの可能性が高いと考えられる患者像があります。器質性EDでは、年齢50歳以上、糖尿病罹病期間が10年以上、あるいはインスリン投与中であることなどがEDの危険因子となりやすいと考えられ、実際に、比較的EDの症状が出ていることが多いといえます。その他には、神経症状や糖尿病の自覚症状、眼底出血、網膜症の方、また足がつる、こむら返りが起こるという方なども、EDの症状を訴える方が多いですね。このように、糖尿病の合併症状とともにEDも発症しているケースは多くあります。

そのような患者さんを診察する際にはEDの可能性を念頭に置いて診療しているのですが、インスリン治療をしている方やアキレス腱反射のない方、また頸動脈エコーでプラークが確認された方は陰茎動脈の動脈硬化も進んでいると考えられるので、そのような方には、「糖尿病性の血管障害というものがあって、そのひとつの現象として勃起障害が起こることがありますが、大丈夫ですか?」と説明し、質問することで、患者さんに気付きを与えたり話す機会を与えたりしています。

診察・問診を行う中で、勃起障害を感じていてお困りだということがわかれば、「EDの治療にはこのようなお薬がありますよ」と治療薬の説明をして、適切な治療を行えば回復する可能性があることを伝えるようにしています。

薬の説明と処方について

−EDについてストレートに質問されていて、治療薬の話も早い段階から行うのですね。

そうですね。医学的な観点から質問しているので、ためらいなく聞く方がいいと思っています。それに、もしEDで困っている方であれば聞いてもらった方がうれしいと思いますよ。全く困っていない方であれば、聞かれたところで何とも思わない訳ですから。実際に、「よくぞ聞いてくれました」といった患者さんもいらっしゃいましたね。大切なのはQOLが良いかどうか、ということです。もし困っているのであれば、手を差し伸べて助けてあげたい。それが医師の努めだと思っています。

ED治療薬についても、いつでもすぐに説明できるよう常に引き出しに入れてあります。3種類の治療薬が発売された順番から、それぞれの作用時間や服薬タイミング、特徴や違い、そして副作用について細かく説明するようにして、そのまま処方まで進めることも多いですね。ちなみに初回の処方では3種類の治療薬を2錠ずつ試していただいて、どの薬が自分に合っているか、ご自身で確認・比較してもらうようにしています。もちろん薬の特性や副作用もきちんと伝え、理解していただいた上でのことですが、比較的早い段階で薬を処方し、治療を進めるようにしています。

なお初診患者さんの場合には、最初に心電図をとるようにしています。もし虚血性心疾患があった場合にはED治療薬が問題となることも考えられますので、慎重を期するためにも心電図の確認は必ず行うようにしています。

心因性EDについて

−心因性EDについて、貴クリニックでの診療状況などをお聞かせください。

近年、ストレスなど心理的要因が原因となって心因性EDになる20代・30代の若い方が増えました。当クリニックにも、ホームページをごらんになって来院されるケースが増えています。糖尿病でもなく他の疾患もない、心電図も異常なく血圧も良い、コレステロール値も高くない、それなのにEDの症状があり、途中で萎縮してしまい駄目だったと。そういった場合は心理的なことが要因となっていますから、お守りとして、ED治療薬を処方することがあります。心因性EDの患者さんは1回の処方で自信を取り戻し、来院されなくなるケースが多いのですが、それでも3割の方は継続して来院されていますので、心因性EDに対してもED治療薬などによる適切な治療やケアが必要だと実感しています。

内科医としてEDを啓発すべきか

−これまでEDをあまり意識していなかった内科医に対して、EDに対する意識啓発は重要だと思われますか。

内科医としてEDを啓発すべきか はい。といいますのも、そこに糖尿病患者さんのドロップアウト率が関係するからです。糖尿病治療を途中でやめてしまう、いわゆるドロップアウトしてしまう患者さんは全体の5%から10%ほどになるといわれていて、実際に当クリニックでも治療途中で来院されなくなる患者さんがいらっしゃいます。来院されなくなる理由には、急に転勤になったという方もいれば時間がないからといった方もいるのですが、糖尿病かつEDの患者さんでEDの治療を継続している方は、糖尿病の治療もドロップアウトせずに継続し、来院されています。来院の目的がEDの治療ということもありますが、いずれにしても治療を継続していることが重要なのです。もちろん糖尿病治療のドロップアウトを防ぐために、無理にED治療を進めたり治療薬を処方したりすることはありませんが、EDはより切実な問題だと感じ、また治療の必要性を実感することがあるのだろうと思います。

糖尿病治療をドロップアウトすることで、糖尿病の罹病期間も長くなり症状が悪化し、そのためにEDになってしまった患者さんの数も、必然的に増える結果となっています。特に比較的若い世代の患者さんの場合、仕事の忙しさなどを理由に治療を中断するケースがあります。実際に忙しくて大変だとは思うのですが、考え方を少し変えてもらうことも大切だと思って、患者さんを指導することがあります。例えば、診察・処方のために1 ヵ月に1回来院され、そこで2時間かかったとします。薬をもらうために2時間待つのはつらいと思われるかもしれませんが、1 ヵ月の内2時間、それを1年12 ヵ月行うだけですから、2時間×12回=24時間で済むのです。考え方次第ですが、365日のたった1日を自分の健康のために使うというのは、そんなに大変なことではないのでは?といった話をすると、もっともだと納得して治療を続けてくれる方もいらっしゃいます。EDに対する意識に限らず、患者さんに気付きを与える指導は医師の重要な役割のひとつだと考えています。365日の1日をご自身の健康のために使って、元気に過ごしていただきたいですね。

−罹病期間の長い糖尿病患者さんがEDとなった際に、ED治療により状態が回復することで、糖尿病も改善に向かうといった傾向はあるものでしょうか。

あります。ED治療に効果があれば、やはりQOLが良くなり糖尿病治療にも意欲的になる、ということですね。これは過去にアンケートを行ったこともあるのですが、EDから回復してきたことで肉体的健康や精神的健康、また糖尿病治療に対して意欲的になり、仕事への活力も湧いてきたという回答がありました。ポジティブに考えることで、血糖値も良くなる好循環が起こるのだと思います。

患者さんの後悔を少なくするために

患者さんの後悔を少なくするために
−EDがきっかけとなって、糖尿病の発覚や、治療意識が高まり重症化せずに済む、ということも考えられるのでしょうか。

考えられるでしょうね。先ほどお話ししたように男性としては、EDはかなり切実な問題で症状も実感しやすい疾患なので、EDになったことで健康に対する意識が変わるということがあります。EDを実感したときや診断されたときに軽く考えたり諦めたりするのではなく、EDになったということはその背後に大きな病気が潜んでいるかもしれない、と自覚することが大切です。患者指導の話とも重なりますが、医師が患者さんを適切な治療に導くきっかけとしても、EDのチェックは大きなポイントになるように思います。

糖尿病が長期化し、重症化することによって、EDを発症するだけでなく腎臓を悪くして透析が必要になった方や、神経障害が進行し足壊疽が起こり足を切断した方、糖尿病網膜症から失明してしまった方をこれまでに何十例も診てきました。そういった方に話を伺うと大半の方が、「自分が悪かった」と治療に専念しなかったことを後悔されています。

診察・治療を行う上では、患者さんに寄り添い支えていく気持ちや姿勢が大切です。そのような思いから患者さんには常に、「何か困ったことがあればいつでも支えます」とお伝えしています。患者さんの後悔をひとつでも少なくするために、私たち医師にできることがあると思っています。

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