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ED診療のコツ

心療内科医・精神科医がみるED(2)

監修:あべメンタルクリニック 院長 阿部 輝夫 先生

男性性機能障害とその主な分類

男性性機能障害の主なものとしては、(1)勃起障害(ED)、(2)腟内射精障害、(3)性欲障害、(4)性嫌悪症、(5)早漏などがあげられます。当院では1984年から外来統計を取り始めて以来20年間に性の問題を主訴に来院した患者数は男女あわせて3,500人を超えます(表1)

年次別に見ると、統計を取り始めた当時の患者数は年間20人足らずでしたが、1995年には100人を超え、1999年に経口ED治療薬が発売される前後から性障害の問題がマスディアを通して紹介されるようになると、それまで性障害の悩みを抱えていた潜在患者が相談できる医院を知るようになり、数百名を超える方が来院するようになりました(図1)

ちなみに一昨年までの来院者の内訳の累積を見ますと、過去15年間、全体の半数をEDが占めていましたが、昨年初めて性同一性障害がEDを上回りました。これらの背景として性同一性障害が治療可能になったことが大きく影響していると思います。

性障害の診断分類(1984〜2004年)

[表1]性障害の診断分類(1984〜2004年)
(あべメンタルクリニックでの調査結果)

年次別外来患者数の推移(1984〜2004年)

(クリックで拡大)
[図1]年次別外来患者数の推移(1984〜2004年)
(あべメンタルクリニックでの調査結果)

心因性EDの診断

本来はRigi scanなどによるNPT(nocturnal penile tumescence;夜間勃起現象)検査、超音波あるいはレーザー・ドップラー検査、各種ホルモン検査、身体的基礎疾患除外などが行なわれたうえで心因性EDの診断がなされるのが正当です。しかし臨床的には、問診により早朝勃起の有無を確認し、マスターベーションが可能であり、肝・腎機能も正常で、ひげも見た目に薄くなく、アルコール歴や喫煙歴に問題がなければ、そのEDは心因性と判断しても良いと考えられます。

心理的病因

ここでは、心因性の病因のうち代表的なものについて説明します。

1.予期不安

最も高頻度に見られた病因で、「今夜はうまくいくだろうか」という不安です。つまり過去に勃起せず、性交に失敗してしまった状況を思い出し、再度失敗することを恐れて、不安・緊張が高まっている状況です。最初の失敗時のパートナーの反応のあり方や、本人がそのときの心理をどう処理したのかなどがその後の経過に重要な影響を与えますが、失敗が繰り返されることで、予期不安もさらに増大し、性交の場面になると、その不安がいつもと同じパターンで出現し、お定まりの神経回路に伝達され、条件反射的に勃起を損なってしまいます。

2.不安発作

突然、動悸、息切れ、発汗、四肢の硬直などに襲われ、救急車で内科に運ばれますが、諸検査で異常所見を認められないものです。不安発作に襲われた患者に共通していることは、死の恐怖を体験している点です。したがって、彼らは動悸や息切れに対して過敏となり、またあの発作が起こりはしまいかと予期不安が高まっています。性交時も当然動悸や息切れが伴うため、不安発作を誘発してしまう恐怖感がEDを起こします。

3.軽症うつ状態

現在増加しているのは、うつ病としての治療までは必要ありませんが、慢性的な疲労状態にあり、気分もすぐれず、意欲も若干低下しているという軽症うつ状態です。彼らはとにかく休養をとることを希望し、疲れる性行為などはもってのほかだと考えています。つまり、性欲相が損なわれているために二次的にEDをきたしている群です。

4.不妊外来

妻が不妊外来に通院中で「何月何日に性交してきなさい」という指示を受けますが、それを契機にEDとなった群です。欲情を伴わない押し付けのセックスや、種馬的で歓楽を無視した生殖のみの性を嫌っての現象と考えられます。また、妻の腟に残した精液を診られることで、間接的に自分たちの性行為を窃視されてしまう不安を持っていることも関係している場合もあります。

5.ターン・オフ

ターン・オフ・メカニズム(turn off mechanism)を提唱したのはカプランで、自らの性欲の火を無意識のうちに“スイッチを切って”消してしまっている現象を指しています。つまり、性的な雰囲気を感じそうになると、明日の仕事のことを考え始めたり、パートナーの身体的欠点に意識を集中させたりします。これは性行為に伴って生じる不安に対する一種の防衛と考えられます。あえて否定的なイメージに集中することによって、反性的な状況に自分をとどめたり、燃え上がりそうな火を自ら消してしまいます。彼らは性的感覚を自ら排除している事実には全く気づいていません。

心因的EDの治療

心因性EDに対しては、私が考案したノン・エレクト法(表2)を頻用しています。これは逆説的な心理療法を利用した、心理・行動療法です。具体的には、勃起させることにやっきになっているカップルに対して、「ペニスの感覚が一番敏感なのは半勃起状態で、勃起してしまうと鈍感になってしまいます。ですから勃起させないようにして、ペニスの根元をつかんで(亀頭部をうっ血させることで少し硬くする)、亀頭部だけを腟入口に浅く滑り込ませ、内部の温かさを楽しむようにしましょう」と、勃起させる必要がないことを伝えます。この宿題のねらいは、妻の月経中や泊り客があるなど、セックスしなくてもよい状況では自然な勃起が生じるのに、「今夜こそは」と思うと予期不安が勃起を妨げてしまう、つまり、しゃにむに勃起させようとしていた心理から、妻からも勃起を期待されないですむ状況を設定して、亀頭部で行なう感覚集中訓練を試みることです。

実際には(図2)のパンフレットを用いて、患者にペニスの皮膚感覚と神経生理の説明、感覚集中訓練の基本について十分な性教育的セッションを終えた後、心因性EDであればパートナーの協力さえ得られれば、100%治癒する保証をまず与えておきます。単身者や別居状態にある男性がEDの治療を求めて来院することがよくありますが、この場合ノン・エレクト法の治療対象にはなりません。なぜなら性交そのものが、非常にプライベートな2人の人間関係のある一つのコミュニケーションの方法であって、その2人の人間関係全体を操作しなければ治療にはならないからです。また、カップルの来院であっても夫婦間に何らかの葛藤があって、親密度が薄かったり、性的熟練度があまりにも低いような場合には、本法の対象になりにくいことがあります

ノン・エレクト法のパンフレット

[図2]ノン・エレクト法のパンフレット

表2 ノン・エレクト法(手技)
  • 勃起させようとは絶対に考えてはいけない(これを何度も強調して伝える。この説明には、「人間の臓器には心臓のようにゆっくり鼓動してくれと願ってもそうならない臓器もあり、ペニスも同じで勃起してくれと思ってもいうことを聞いてくれない。逆にそんなふうに思って焦ったり、不安がったりすることで、ますます勃起しにくい状態に陥ってしまう」ことを理解してもらう)。
  • いつものように愛撫しあって、膣潤滑が得られたことを確認する。
  • 半勃起状態もしくは、平常時のペニスの根本を指で圧迫し、亀頭部をうっ血・充血させる。これはパートナーの指で行ってもよい(この説明には、液体のりのチューブを使って実際につまんで、先の方が硬くなることを確認してもらえばよい)。
  • この状態のまま、亀頭部だけを膣入口に滑り込ませる。
  • そして全神経を亀頭部の感覚に集中し、膣内のやわらかさ、温かさを楽しむ(ここで注意しなければならないのは、亀頭部には痛点および温点は分布していないので、温かさを感じることができるのは亀頭頸部と包皮心体部など陰茎体部に近いところになってくることである)。
  • もし勃起してくるようなら、一度膣からぬきとって、勃起が消退するのを待って、再挿入する(あくまで勃起させてはだめということを伝える。勃起してしまったら、皮膚感覚が鈍くなってしまうので、集中訓練には適さず、失敗であることを再度説明する)。
  • ペニスに手を添えながら、ピストン運動はかまわないが、深い挿入は禁止(ノン・エレクト法は性交を目的にしたものではなく、一つのエクササイズであるというイメージを与える)。
  • 亀頭部で十分に膣内の温かさを感じとれたら終了する。協力してもらったパートナーには感謝をこめてサービスする(この指示が重要である。女性パートナーは興奮相まで来ているが、オルガズムには至っておらず、このまま終了してしまっては、性欲エネルギーは開放されず問題を生じることになる。もちろん男性にもマスターベーションによる射精は許可しておく)。

ノン・エレクト法の今後の課題

本法の宿題に対して、女性パートナーから抵抗が生じることがあります。「実験台にされている」「自然さがなく、マニュアル的だ」などの意見があり、宿題が行なえず、治療が進まなくなることがあります。このような場合、夫婦間のコミュニケーションがうまくとれていないことが多く、セックス・セラピーに入る前に、夫婦間調整のための、マリタル・セラピーへの導入が必要になってきます。さらに重要な問題は、本法の副作用として、協力してくれていた女性パートナーが性嫌悪症に陥ってしまう例が数例みられたことです。いずれも、手技8.の事後の女性パートナーへのサービスを怠っていたカップルに起こっています。すなわち、女性パートナーは少なからず、性的に興奮させられておいて、腟の入口部だけでの挿入の繰り返しに終始してリビドーが解放・満足されないままに終わってしまうことで、自分の性欲も抑制してしまい、そのような性的接触を嫌悪するまでに変化してしまったと考えられます。今後はさらに症例を重ね、手技の改善の可能性を模索していきたいと思います。

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