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ED診療のコツ

心療内科医・精神科医がみるED(1)

監修:琉球大学医学部 名誉教授 石津 宏 先生

心因性EDとは

心因性EDとは、様々な心理的要因によって引き起こされるEDのことで、心身症の1つといえます。EDは一般に陰茎やその勃起に関わる組織に器質的な病変のある「器質性ED」と器質的病変のない「機能性ED」に大別されます。機能性EDの中でも、身体疾患、精神疾患、薬物服用など何らかの基礎となる原因があるEDを「症状性ED」、特別な身体疾患、精神疾患のない普通の健康男子が心理的要因によって引き起こすEDを「心因性ED」と呼んでいます(表1)

[表1] EDの分類
.器質性ED:
  organic ED
陰茎やその勃起に関わる組織に器質的な病変
.機能性ED:non-organic(functionnal ED)
1)症状性ED:
  symptomatic ED
何らかの基礎となる原因がある機能性ED
(1)内科的身体要因性ED(高血圧、心疾患、肝疾患、腎疾患、消耗性疾患、有熱時、過労性など)
(2)精神病性ED(精神分裂病[総合失調症]、気分障害[躁うつ病]、妄想性障害など)
(3)物質誘発性ED(アルコール、薬物、嗜好品、その他)
2)心因性ED:
  psychogenic ED
さまざまな心理的諸要因によって引き起こされる心身症
(1)現実心因によるもの
(2)深層心因によるもの

EDの鑑別法

一般内科や泌尿器科で心因性EDか否かを鑑別する場合、経口ED治療薬を最初に服用してもらい、EDが改善した患者さんは、心因性EDの可能性が十分あります。逆にED治療薬の効きが悪くて治らない場合には、むしろ心因性以外のEDを考慮した方がよいと思います。他に鑑別のための簡単な検査法としてスタンプテスト(夜間勃起現象テスト)があげられます。就寝前に患者さんに郵便切手を陰茎に巻いてもらい、朝起きたとき切手が切れていれば「夜間勃起あり」と確認できますので、心因性EDの可能性が高いと考えられます。

器質性EDが除外されれば、次にその患者さんが何らかの基礎的要因に基づいた「症状性ED」か「心因性ED」かを診断します。高血圧、心疾患など内科的身体疾患を伴う場合、その基礎疾患の治療が優先されなければならないため、必要に応じた内科的精査を行います。幻覚や妄想、うつ症状を伴う場合、精神医学的な精査が必要なため精神科へ紹介します。アルコール中毒や薬物服用を伴う場合、かなりの割合で薬剤性EDを随伴している方が多いのですが、まず薬物乱用への対応が優先されます。これらを除外できた場合、心因性EDの可能性が高いと考えられます。

その他、待合室で簡単な心理テストを行なってもらい、補助的な診断として用います。心理テストでは、客観的な評価、短時間の情報取得、治療方針の手がかり、経過の把握などが得られます。項目法と投影法があり、投影法は専門的な技術を要しますが、項目法は専門医でなくても使えます。以下に、よく使うものを3つあげます。

1.CMIテスト(Cornell Medical Index):

原法を日本で改訂した阿部式は、はい、いいえの2択で質問数も94問と少なく簡単にできる心理テストです。点数が高ければ不安度が高く、自律神経が乱れているなどチェックできますので、心理的に何かありそうだという目安になります。

2.SDS(ZungのSelf-rating Depression Scale):

4段階評価で20問に点数をつけていきますが、うつを見つけるには非常に有効です。標準化されていて世界で通用しますので、用いる価値がありますし、心因性EDやうつを伴った機能性EDを見分けるには有用です。

3.MAS不安検査(Taylor不安尺度):

不安のチェックで65項目のうち赤○の数、青○の数を量的に捕らえて不安の状況を把握します。

心因性EDの心因

心因性EDは心因により2つに大別できます(表2)。

1つは現実心因で、日常生活の中でちょっとしたことがストレスとなり、それが原因でEDを起こす場合です。代表的なものは新婚EDで、「結婚した、でもできない、どうしよう」など、若い方が多く、悩みは非常に深刻です。その他の例としては、何人かの女性とセックスしているうちに、ある一人が「早漏ね」、「だめな男ね」、「役立たずね」などの言葉をかけると、若い男性は非常に敏感に反応し、言葉の衝撃や言葉の暴力でEDになります。また、風俗に行き、性病を患い、それがきっかけでEDになるものを性病恐怖症、恋人と付き合っているうちに結婚しようと思っていない女性を妊娠させてしまった場合のEDを妊娠恐怖症といいます。結婚して奥さんとうまくいかない、経済的なストレスがある…など自分自身でほぼ容易に原因が見当つくものが現実心因です。

もう1つは日常生活の中には特に心理的ストレスはないものの、幼児期の体験や性的トラウマなど過去の出来事が原因となり、心の深層にある原因がEDを起こす場合です。例として、恋愛結婚をした非常に仲の良い夫婦に子供ができたとします。すると夫の態度に変化が現れ、以前のような優しさが消え、勃起障害を伴い横暴になってきます。生まれた赤ん坊が男の子であった場合、さらに暴力的になり、虐待を始めます。なぜこのような態度を示すかといえば、息子に愛する妻をとられたと思うわけです。これは形を変えたエディプス・コンプレックス*(表2参照)で、身体的には大人でも精神的には未発達で、性的に未熟な男性が妻に対して母親像を抱き、妻と母親と混同している状態です。性的に未熟な男性は大体幼児期に母親コンプレックスがあり、夫婦仲の悪い家庭環境で育った場合が多く、必要以上に息子をかわいがった母親からいつまでも離れられず、妻と恋愛をしても常に母親像を求めるという深層心理が根底にあるわけです。

このように現実心因の場合、原因は自分で大体の見当がつきますが、深層心因の場合、大半は心の無意識ないし意識下の世界のため見当はつきません。

[表2] 心因性ED患者の「心因」
現実心因 深層心因
現実の日常生活における心身のストレスや心理的諸要因が原因・誘因 心の深いところの心理的原因・誘因
緊張過剰、あせり、過労、睡眠不足、心配事、家庭内不和、経済困窮、パートナーとの感情的トラブル、性的無知、性的未熟、初体験、新婚、初夜、早漏、過去の性交の失敗、失恋、嫁姑問題、性感染症、別居、短小コンプレックス、マスターベーションへの罪悪感、妊娠恐怖、不倫、事故や災難、職場のトラブルなど 抑圧された怒り、憎しみ、妬み、不安、愛情葛藤、欲求不満、幼少時における心的外傷体験、母子分離不全、去勢恐怖、※エディプス・コンプレックス(潜在する無意識的な近親相姦欲求)、ホモ・セクシャルなど

心因的EDの薬物療法

経口ED治療薬発売前は、ビタミン剤などの栄養剤、血管拡張薬、漢方薬、抗不安薬などを用いて治療を行っていましたが、薬物では心理的な原因で起こる心因性EDには一定の効果しか現れず、根本的な治療には心理療法が必要でした。しかし経口ED治療薬の登場により、ED治療は飛躍的に改善しました。当初の予測では、原因が解決しない限り根治は難しいと思って始めたのですが、実際に使用してみますと、心因性EDには非常に有効です。心理的ストレスがあっても、性欲のある方には効果的で、勃起することで自信を回復し、悪循環していた不安要素を断ち切ることが可能です。それまでマイナスの学習効果を繰り返していた方が、報酬学習というプラスの学習に切り替わるきっかけとなります。

そこで、現在では経口ED治療薬の服用で有効な方は薬のみで治療しますし、不十分な場合にはこれまで行なってきた心理療法を併せて治療を施します。ただし深層心因性のEDには、経口ED治療薬の有効率はあまり高くはありません。

心因的EDの心理療法

現実心因に対しては、一般心理療法と呼ばれるカウンセリングが最も効果的です。通常、患者さんは最初に精神科を来院することはほとんどなく、まず自分で何とかしようとします。たとえば強精ドリンク剤を飲んでみたり、筋力アップを図ったり、今度こそ出来るに違いないと一生懸命頑張ってみたりするのですが、やればやるほど緊張過剰に陥り、結局はだめになります。だめになるとまたそれがトラウマとなり、次もだめではないかと考え、予期不安が膨らみ、いよいよ追い込まれていきます。これは心理的な心身交互作用が働いている状況で、やがて「弓折れ矢尽く」状況で、各科を回った後、最終的に心療内科や精神科に紹介されてきます。そこで心療内科や精神科では患者さんの話を丁寧に傾聴し、受容、支持して、さらに回復への意欲を保証してあげる支持的な心理療法を施します(表3)。カウンセリングをさらに発展させて精神療法、行動療法などを組み合わせて行なうものがセックス・カウンセリングです。セックス・カウンセリングの場合、パートナーと一緒に治療を受けたがる方と本人のみで解決しようとする方がいますが、パートナーの協力的な対応が取れるか否かで予後が随分違います。新婚EDの方の場合、何とか自分ひとりでパートナーに知られないうちに治そうとする割合が高く、個人カウンセリングを受けに来ます。パートナーが協力的で、一緒に治療を受けに来る場合、パートナーにも心理療法を施します。いずれの場合も行動療法では、何が原因でEDが起こったのか、不安に感じる事柄に序列をつけて、軽いものから段階的に治療していきます。また緊張して何もできないという場合には、自律訓練法といってリラクセーション体操のようなものを教えて、自宅で毎日実行してもらいます。このように現実心因性のEDは、心理面接により原因を追究して患者さんに合った心理療法を行います。

一方、深層心因に対しては分析的心理療法と呼ばれる精神分析的な手法を施します。深層心因は、本人の無意識の世界を探って原因を追究するため、原因の解明までに長期間要し、治療は比較的手がかかります。

[表3] 一般心理法の基礎的要素とキーポイント

一般心理療法 Practical psychotherapy (支持的精神療法 supportive psychotherapy )
良好な治療者・患者の良好なコミュニケーション doctor-patient relationship (医師と患者の良好なコミュニケーション)

プライバシーへの配慮 アポイント診療
個室での面接
共感的理解を伴う受容的態度 受容 acceptance…傾聴、相づち、確認、受容
支持 support…肯定的、支持
保証assurance…不安を除く、希望
自由回答式質問 open-ended question 選択回答式質問は避ける
患者と同じレベルで語る
医師の価値観で判断しない
治療的自我 therapeutic self 選択回答式質問は避ける
患者と同じレベルで語る
医師の価値観で判断しない
治療的自我 therapeutic self 医師自身の問題の解決
EDに対する正しい知識を持つ姿勢
性に対する考え方の把握の自己分析
医師の人格
患者の心的内界への敬意 患者への真摯な態度
治療的距離 therapeutic distance 適切な心理的距離

今後の治療

これまで心療内科や精神科で行なってきた心因性EDの治療手順も、経口ED治療薬の登場により、心理療法を施す前にまず薬を使用してその有効性で判断する、という流れに変わってきています。心療内科医や精神科医がED治療薬を処方してはいけないということは絶対にありませんので、禁忌症例など十分な知識をお持ちの先生には積極的に処方をしていただきたいと思います。また、心因性EDは開業医の先生方の治療対象でもありますので、治療可能なEDもあるということを認識して診療に当たっていただければ幸いです。

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