専門医がみるED

性機能専門医がみるED

監修:博慈会記念総合病院 顧問 白井 將文 先生

勃起機能障害(ED)は性機能障害(SD)の一つ

人類が誕生した頃は他の動物と同じように、性は子孫の存続、種の保存という目的が主で、生殖が終われば生命も終わるのが普通であったにちがいない。しかし、人間では大脳の著しい発達に伴って、性は本来の生殖の目的から離れて、快楽や夫婦のコミュニケーションの手段として、より重要性を増してきた。特に、最近の医療技術の進歩により、先進諸国では長生きが可能となり、むしろ生殖を伴わない性生活が延々と続く時代になっており、性生活をいかに楽しく過ごすかが重要な課題になっている。

男性の場合、性行為を完遂するには十分な性欲があり、陰茎が勃起し、腟内に挿入でき、射精も可能でオーガズムも十分であることが必須条件である。このうち一つでも欠けるか不十分であれば、満足な性行為はできず、性機能障害(sexual dysfunction:SD)に陥る。日本性機能学会では、SDを“性欲、勃起、性交、射精、オーガズムの一つでも欠けるか不十分なもの”と定義している。

勃起がうまくできない場合を勃起機能障害(erectile dysfunction:ED)というが、“勃起の発現あるいは維持ができないために満足な性交ができない状態”をEDとする米国NIHの定義が日本でも一般的に用いられるようになってきた。しかし、EDがSDと混同して使用されることもあり、今一度、EDはSDの中の一つであることを医師および患者ともに理解する必要があるだろう。

EDの研究のながれ

男性では陰茎が勃起しなければ性交は不可能であることから、勃起については古くより関心がよせられ、そのメカニズムの研究も行われてきた。しかし、本格的な研究が行われるようになったのは第2次大戦以降のことである。

われわれが性機能の研究を開始した1960年代は、動物を使用した陰茎の勃起に関与する末梢神経系や血管構築の研究が主流であった。われわれは陰茎のhemodynamic mechanismや神経支配を中心に研究を行い、また、器質性EDと機能性EDの鑑別法や治療法について、現在とは細部では随分違っているが、基本的な点ではほとんど同じように行っていた。例えば、器質性EDと機能性EDの鑑別法としてvisual sexual stimulation (VSS) を負荷する方法や、血管作動薬(ヨヒンビンとストリキニーネの合剤の注射薬、現在は製造されていない)を負荷するというファーマコテストを既に行っており、陰圧式勃起補助具と同じ原理で陰茎を勃起させる装置を作製して、陰圧時の陰茎血流動態の観察も行っていた。

その後、陰茎海綿体注射や経口ED治療薬が開発され、勃起のメカニズムも分子レベルで解明された。これに伴い、診断手順も大きく変わった(後述参照)。最近では、脳でのメカニズムも解明されており、今後、作用機序の異なる新しいED治療薬の開発、遺伝子治療や再生医学のEDへの応用が期待されている。

日本のED患者数は1,100万人以上

経口ED治療薬が発売され、世界的にEDに対する関心が高まった。そして、全世界で疫学調査を行おうという気運が高まり、その一つのグループとしてブラジル、イタリア、マレーシア、日本の4ヵ国が参加して、同時にEDの疫学調査を行った。その結果、日本には、完全ED(勃起せず性交が不可能)患者が260万人、中等度ED(たまに勃起が可能で性交の間中勃起を維持できる)患者が870万人おり、軽度EDを除いた両者だけでも1,130万人もいることが判明した。ED有病率は40歳代で約20%(つまり5人に1人)、50歳代で約40%、60歳代で約60%と、年齢とともに上昇することが分かった(図1)。また、同時に疫学調査を行ったブラジル、イタリア、マレーシアの成績と比較すると、日本のED有病率は39%とずば抜けて高い(図2)。これは、日本が他の国と比較して、人口の高齢化が進んでいるためと考えられる。

EDはまれな疾患ではなく、ごくありふれた疾患であり、人口の高齢化が進めば、ますますED患者が増加していくことが予想される。さらに、最近行った男性糖尿病患者を対象としたEDの実態調査より、軽症以上のED有病率が実に90%であったことから、糖尿病などの生活習慣病患者数の増加により、ED患者数も増加すると考えられ、今後、EDの治療がさらに重要になってくると思われる。

図1 日本人の年齢別ED有病率
白井將文:概論:臨床統計(我が国および諸外国).男性性機能不全.日本臨牀60(増刊号6):200-202,2002

図2 ED有病率の比較
白井將文:概論:臨床統計(我が国および諸外国).男性性機能不全.日本臨牀60(増刊号6):200-202,2002

診断は経口ED治療薬による治療的診断法が主流

 経口ED治療薬の登場で、EDの診断手順は大きく変わった。(図3)に診断手順を示す。



 問診では、うっかり重要なことを聞き漏らさないために、日本性機能学会の共通カルテ(図4)を使用すると便利である。特に、経口ED治療薬の使用を前提とする場合は、硝酸薬や一酸化窒素供与薬を服用、注射、舌下使用、貼付使用していないかなど、禁忌事項を忘れずに聞くようにする。臨床検査項目は、経口ED治療薬の処方が可能かどうかだけの目的であれば、血圧の測定を行った後、血液一般検査と血液生化学的検査として腎機能・肝機能検査項目を中心に行う。心疾患などが疑われる場合は、心電図検査を行う。


ED専用カルテ1
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ED専用カルテ2
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ED専用カルテ3
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ED専用カルテ4
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経口ED治療薬の使用が可能な患者にはこれを使用し、十分な効果が得られたらそれ以上の検査をせず、そのまま薬による治療を行う(これを治療的診断法と呼んでいる)。薬で効果がなかったり、最初から薬が使用できない患者には、別の手順で検査を進める。このように、EDの振り分けは、経口ED治療薬を使用することから始まる。

薬で効果がなかったり、薬が使用できない患者には、夜間レム睡眠に一致してみられる夜間勃起(nocturnal penile tumescence:NPT)をリジスキャンで計測するのが一般的であり、NPTの程度(硬度、周径の伸び)だけでなく、その頻度や持続時間などの記録が可能である。われわれは外来で、視聴覚性的刺激(audiovisual sexual stimulation:AVSS)負荷試験を行っており、これで十分な勃起が得られれば、大脳を含めて勃起機能は正常と判断でき、NPTの計測を含めて以下の検査は不要となる利点があり、AVSSに反応の悪い患者のみNPTの計測を行うようにしている。

NPTに異常がある患者には、血管拡張薬のプロスタグランディンE1(PGE1)を陰茎海綿体に注射して勃起反応をみるPGE1テスト(ファーマコテストあるいはICIテストとも呼ばれている)を施行する。これで十分な勃起が得られれば、海綿体組織を含めて血管系には異常はないと判断してよい。

PGE1テストで反応が悪ければ、血管系に障害がある血管性EDが疑われるので、PGE1を陰茎に投与して超音波カラードプラ装置で陰茎内の血管の状態を観察し、左右陰茎海綿体動脈の収縮期最大血流速度(peak systolic velocity:PSV)を測定する。両側ともPSVが30cm/秒以下の場合は、流入動脈系の異常による動脈性EDと診断する。一側PSVが30cm/秒以下の場合も、流入動脈系の異常が考えられるので、内陰部動脈造影が必要になる。また、PSVが30cm/秒以上だと流入動脈系は正常であるが、流出静脈系、すなわち海綿体組織や静脈系の異常による閉鎖機構の障害が疑われるので、陰茎海綿体内圧測定と陰茎海綿体造影(dynamic infusion cavernosometry and cavernosography:DICC)が必要になる。しかし、これらの検査は患者への侵襲が大きく、特に心血管系に障害のある患者には危険な検査であるので、CT angiographyやRadioisotope penographyが試みられている。

一方、NPTで反応が悪いがPGE1テストで反応の良好な場合は、血管系は正常で、神経性EDが疑われるので、勃起に関与する神経系の検査が必要になる。現在のところ、勃起に関与する自律神経の機能を直接見る検査法は開発されていないので、球海綿体筋反射の潜時や陰茎背神経の伝導速度の計測、あるいは陰茎亀頭部の振動覚閾値の計測などで代用されている。

治療法の評価はパートナーの満足度で

経口ED治療薬が発売されるまでは、EDをいかに診断し治療するかに注意が払われ、治療に対するパートナーの考えや満足度についてほとんど配慮されなかったが、治療薬の登場で、パートナーがどの程度治療に満足しているのか検討されるようになってきた。

患者がいかに満足していても、パートナーが不満を抱いていれば治療法としてはベストとはいいがたく、今後、治療法の評価として、パートナーの満足度がどの程度かがますます重要になってくると思われる。

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